【恐怖】近づくことさえ禁止された土蔵の中には、知らないおばさんがいた…

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大塚さんのおばあさんの家には、立派だが、立ち入り禁止どころか近づくことも許されない土蔵があった。
その為、普段は鍵がかかっているが、何故か扉が少し開いている日があった。
これはチャンスと忍び込んだ大塚さんだったが───



北大阪のM市に住む大塚さんの話である。 
大塚さんは、四、五歳くらいになるまでよく母親に連れられて、今は人手に渡ってしまっている“おばあちゃんのお家”に行っていた。 
その“おばあちゃんのお家”に関する記憶で、大塚さんに強く残っているのはどういうわけか、次のようなものである。 



“おばあちゃんのお家”には、土蔵があった。ほの白い、ぶあつい壁のそれは立派な土蔵で、母屋からはずいぶん離れていた。 
大塚さんもよくその土蔵のそばで遊んだりしたのだが、どういうわけかおばあさんは大塚さんがそうすることを喜ばなかった。というよりも、遊んでいるところを見つかると、いつも大目玉を食っていたのである。
 
「**ちゃん、遊ぶなら前栽か、おうちの中でお遊び。いいかい。ここで遊んじゃだめだよ」 

そういった意味のお小言を、何度も言われた大塚さんである。 


それにしても、蔵の中ならばともかく、蔵のまわりさえ近づいてはいけないとはどういうことなのか?危ない、近づいてはいけないというなら、井戸のまわりの方が先にくるのではないだろうか? 



ともかく、子供というものはダメといわれるとよけいにそれをやりたくなるものだ。 
蔵の入り口にはいつも頑丈な鍵がかかっていたが、一度だけどうしたものか、その入り口が細く開いていたことがあった。もちろん、大塚さんがそれを見逃すはずはなかった。 

(探検だ!) 

小さな窓からなんとか光が入ってくるだけの蔵の中は、湿気ていて、ホコリっぽく、独特の臭いがした。想像とは違って、ほとんど何もない。がらんとしている。 
ただ、二階へと通じる急な階段が、入り口からすぐはじまっていたのが大塚さんの興味を誘った。 

ぎいっ。 
みしっ。 
ぎぎい~っ。 
みし~っ。 

歩く度に板が軋んで、いかにもあぶなげだった。 


(なあ~んだ) 

二階も一階とそれほど変わらない。やっぱりほとんど物は見当たらなかった。大塚さんは、少しがっかりした。 
歩く度にホコリが舞い上がって、かすかに差し込む陽光がいくつもの光のカーテンをつくっていた。目を引くものといえば、それくらいのものだった。 


もっとホコリを舞い上げようとっして、汚れるのもかまわずにバタバタ走りまわっていた大塚さんが、何かにぶつかったのはその時だった。 

(あっ!) 

大塚さんは、はねとばされて、その場にしりもちをついた。それからきょとんとした顔になった。 
なぜなら、自分が何にぶつかったのか、ぜんぜんわからなかったからだ。何しろ、物らしい物がないところなのだから。そこには、ホコリが静かに漂っているだけだ。 
なんにもない。なんにも……。 



ミシリ。 

しんとした中で、何かが軋む音がした。大塚さんの背後だ。階段からだ。 
誰かが階段の板を踏んでいる……? 

(おばあちゃん?) 

大塚さんは、反射的にそう思った。たった今ぶつかったものも気になったけれど、土蔵に入り込んでいるところを見つけられて、叱られるということの方がもっと気になった。
で、なかば首をすくめながらそちらに振り返った。 


顔が、そこにあった。 
大塚さんの知らないおばさんが—たぶん女だったというのだが—階段の中ほどに立っているらしく、二階の床すれすれに大塚さんをじっと見つめていた。
顔は、唇あたりから上しか見えない。このあたりが、ひどくあいまいだが、髪の形も顔の特徴も、ほとんど大塚さんはおぼえていない。 
ただ、その目というのが、いっぱいに見開かれているにもかかわらず、黒目の部分がほとんどまぶたに隠れてしまっていた。まったく死んだ魚のようだった。

 
顔は、すぐにすっと下にひっこんだ。それっきり二階に上がってもこないし、外に出ていく音もしない。 
いきなり、大塚さんは泣きだしていた。 
べつだんどこか痛いわけでも、今の知らないおばさんに何をされたわけでもないのに、とにかく大声で泣いていた。 


その声を聞きつけて、母親たちが駆けつけてきたのは間もなくだった。
予想に反して、大塚さんあまり怒られなかった。ただ、土蔵の中でこういうことがあったというと、母親たちは急に黙ってしまった。 



その夜、大塚さんが座敷で寝ていると、襖の向こうから母親とおばあさんが話をする、小さな声が聞こえてきた。 

「また、開いていたよ。……錠前が落ちていてね。いったい、どうなっているのかねえ」 

「そうはいっても、アレだけ取り壊していいものかどうか。アレのことは、あの人にも言われていたんだけど」 

「出入りの**さんが見たときには、白けたニヤニヤ顔のが、薄暗がりの中に、ぎっしり立っていたというじゃあないか」 

「話し声も、だんだんひどくなってくるし」 

「私もこの頃じゃあ、すっかり気が弱くなったよ。…母屋のほうにまで入ってきたらどうしようかと思って、夜は廊下を一人で歩けやしないよ。このあいだも、もの凄い気配だったんだよ。悲鳴をあげたんだよ」 

と、おばあさんが訴えていたのが、妙になまなましく思い出せるというのである。 



大塚さんが成人する前に、“おばあちゃんのお家”はなくなってしまった。例の土蔵もそのとき、取り壊されてしまった。 
今となっては、大塚さんの体験が何であったのか、あの土蔵には何かわけがあったのか、親戚も含めて知っている人間は誰もいないようだ。 


現在では、“おばあちゃんのお家”があった土地には、どこか誰かの家が建っている。しゃれた、洋風住宅だ。 
外から見たかぎりでは、ごくふつうの家のように見えるのだが、昔、土蔵があった場所までふつうかどうかはなんとも言えない。 



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